脳内ロマ貯金

私は東京西部の郊外にすんでいる。新宿まで電車で40分ほどかかる。
ところで、某私鉄では、新宿から東京西部向けの特急というのが出ていて、それに乗ると、ゆったりとした座席で、快適に帰ってこれる。ただし、全席座席指定で、特急料金が400円ほど余計にかかる。都心に行って疲れたときは、これに乗って帰りたい、という欲求が高まるのだが、しかし、1回400円である。こんな贅沢なものに乗るのはブルジョワである。そうそう乗るわけにはいかない。
そこで、考えた。何か贅沢なことを我慢したときに、その分のお金を特急料金に回そう、と考えるのである。特急の名称の略称をとって「脳内ロマ貯金」と名づけた。
たとえば、ドトールでコーヒーを飲むのを我慢する。すると、200円、つまり「0.5ロマ」貯まった、と考えるのである。自販機で飲み物を買うのを我慢すると、「0.3ロマ」ぐらい。くるみを買うのを我慢すると、「0.8ロマ」ぐらい貯まってしまうのである。
そうすると、我慢するたびに、たぶん何か脳内で分泌されるので、いい感じに日々の生活が楽しくなってきた。
しかし、はたと気がついた。最も効率よく、強烈に物質が分泌される感じで、脳内貯金ができるときがあるのだ。
それは、特急に乗るのを我慢したときである。
「あー、ロマに乗りたい……でも我慢しよう。これで1ロマ貯まるじゃないか!」
われながら、人生がいい感じに回ってきたようだ。